東京地方裁判所 昭和54年(ワ)6858号 判決 1981年10月13日
原告 斎藤申二
右訴訟代理人弁護士 柏木博
同 岩瀬外嗣雄
同 明賀英樹
被告 株式会社 鐵原
右代表者代表取締役 野村健二
右訴訟代理人弁護士 松嶋泰
同 長尾憲治
主文
一 被告は、原告に対し、別紙目録記載の株式について、原告名義への名義書換手続をせよ。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
(原告)
一 主文同旨
二 仮執行の宣言
(被告)
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
(請求原因)
一 原告は、昭和五四年三月一日、訴外早川正輝との間で、同訴外人からその保有の別紙目録記載の株式(以下「本件株式」という。)を譲り受ける旨合意して同目録記載の株券(以下「本件株券」という。)の交付を受けた。
二 よって、原告は、被告に対し、本件株式について、原告名義への名義書換手続を求める。
(請求原因に対する認否)
訴外早川正輝が本件株式の株主として本件株券を保有していたことは認め、その余は否認する。
(抗弁)
原告は、昭和五四年三月五日、被告に対し、本件株式について、原告名義への名義書換を請求した際、本件株券を呈示しなかったので、被告は、右請求に応じなかったところ、同年六月二八日付の株主総会において、「株式の譲渡をするには取締役会の承認を要する」旨の定款変更を決議し、同年七月一六日、株主名簿記載の株主に対し、商法三五〇条一項の規定に基づき、「右決議がされたことにより同年八月三一日までに株券を被告に提出すべきこと、同日までに提出のない株券は無効となる」旨を書面で通知するとともに、その旨の公告をした。しかるに、本件株券は、右期間内に被告に提出されなかったので、同年八月三一日の経過とともに無効となり、このような無効な株券による本件株式の名義書換請求は、法律上不可能というべきである。
(抗弁に対する認否及び主張)
一 抗弁事実中、原告が、昭和五〇年三月五日、被告に対し、本件株式について原告名義への名義書換を請求した際、本件株券を呈示しなかったことは否認し、その余の事実は認める。
二 被告は、原告が本件株券を呈示しなかったことを理由に右名義書換請求を拒否したのではなく、何ら明確な理由を示すことなく右名義書換請求を拒否したのであるから、本訴において、原告の本件株券不呈示を理由とする右名義書換請求拒否の主張は、不当なものであり、原告は、被告に対し、株主たることを主張できるものである。しかも、本件株券が商法三五〇条一項の規定による提出期間を経過した後の未提出株券として無効になった場合にも、原告は、本件株式について、株主たる地位を何ら失うものではないから、被告の抗弁は、何ら理由がない。
第三証拠《省略》
理由
一 請求原因事実中、訴外早川正輝が本件株式の株主として本件株券を保有していたことは当事者間に争いがなく、その余の事実は、《証拠省略》を総合すると、これを認めることができる。
二 抗弁事実は、原告が、昭和五〇年三月五日、被告に対し、本件株式について、原告名義への名義書換を請求した際、本件株券を呈示しなかったことを除いて、当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、原告は、訴外早川正輝から本件株式を譲り受けた後、昭和五四年三月五日ころ、本件株券を持参して被告の本社事務所に赴き、同所にて、当時被告の総務副部長であった訴外向秀敏らに対し、本件株式について、原告名義への名義書換を請求したところ、同訴外人らは、原告に対し、本件株券の呈示を求めることなく、名義書換手続の担当者が不明である、という理由のみでこれに応じようとしなかったこと、その後も、被告の名義書換手続の担当者である訴外多田某は、原告に対し、本件株式の譲渡人を明らかにするよう求めるのみで、結局、同月一四日、本件株券の呈示の有無を理由にすることなく、「野村家の者が一度でも触ったものは野村家の株式と認める」旨を述べて原告の右名義書換請求を拒絶したことが認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。
そこで、右認定事実によれば、原告の右名義書換請求に際し、原告が本件株券を所持していたのにかかわらず、被告の社員は、原告に対して本件株券の呈示を全く求めなかったばかりでなく、その後、被告の名義書換手続担当者においても原告に対して本件株券の呈示を求めなかったとともに、本件株券の呈示がなかったことをもって右名義書換請求拒絶の理由とはしなかったのであるから、今日において、右名義書換請求に際し、本件株券の具体的な呈示がなかったことを被告が主張するのは許されず、逆に、原告は、本件株券を呈示していたものと認めるのが相当である。したがって、原告の右名義書換請求は適法なものというべく、これに対する被告の拒絶は、合理的とは到底いえないので、原告は、名義書換手続を経ていなくとも、被告に対し、株主たる地位を主張できるものといわなければならない。
のみならず、商法三五〇条一項の規定による提出期間内に未提出の株券は、右期間の経過とともに無効な株券となるが、同項の規定は、定款変更により株式譲渡が制限される以前に流通している旧株券を回収し、譲渡制限の趣旨を記載した新株券を交付するための制度であるから、同項の規定にいう「株券ハ無効トナル」とは、右旧株券が従前表章していた株式を表章しなくなることを意味するにすぎないのであって、右株式そのものの効力には何らの消長をきたすものではないと解するのが相当である。したがって、同項の規定による提出期間の経過前に株式を譲り受けて保有するに至った者は、右期間経過前に名義書換請求をしたか否かにかかわらず、右期間経過後においても、会社に対し、その株式取得原因事実を主張、立証して、その名義書換を請求できることになり、被告の抗弁は、主張自体失当であって理由がない。
そうすると、前記事実から明らかなとおり、商法三五〇条一項の規定による提出期間の経過前に、本件株式を訴外早川正輝から譲り受けて保有するに至った原告は、被告に対し、本件株式について、原告名義への名義書換を請求できることになる。
三 以上のとおり、原告の本訴請求は理由があるのでこれを認容することとし、訴訟費用については民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。なお、仮執行宣言の申立については、相当でないから、これを却下する。
(裁判官 井上弘幸)
<以下省略>